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【書評】10. 安藤清志「見せる自分/見せない自分」サイエンス社

10. 安藤清志「見せる自分/見せない自分」サイエンス社

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 目次:見せる自分/見せない自分・釈明・セルフハンディキャッピング・他者の栄光に浴する・自己呈示とは?・良い印象を演出する・「強さ」と「弱さ」を演出する・自己呈示の個人差・自己呈示と自己概念・舞台から降りて
 著者:(著書発行当時)東京女子大学文理学部教授。心理学博士。対人行動と自己、社会的影響過程の分野を中心に研究。

 本書の印象を一言で言うと「諸刃の剣」です。この本から得られる知識は有意義ですが、その知識を身近な人に当てはめたり、自分自身を分析してみたりするのは危険と感じました。特に家族や友人に対してこの諸刃を向けないよう注意してください。真実を知ると辛くなる、と言うのはままあることですが、科学的な実証実験(多くは米国の研究者が学生を対象としたもの)に裏書きされた人の心理を見せられると「知る必要のないことを知ってしまった」戸惑いを覚えるかもしれません。本書では人の心の舞台裏を覗いたような気分になります。そのため誰にでもお薦め、という類の書籍ではありません。
 自己呈示(セルフ・プレゼンテーション)をネガティブに捉えると「人の心なんて所詮そんなものだ」とか「こういう人間心理を応用して得をする人が世の中にいるよね」とか或は「人生は結局だまし合いだ」のような思いが浮かぶかもしれません。逆にポジティブに考えればこれまで理解しがたいと感じていた他者の言動を少しは冷静に受け入れられるようになるでしょう。

 もったいぶった書き方をしてしまいましたが、具体的には栄光浴(有名人や社会的地位の高い人と自分との繋がりを見出そうとする心理)の例として自分と誕生日が同じ著名人に対して人はどんな気持ちを抱くかという実験結果があり、良い評判の著名人なら誇らしい気持ちに、悪い方の著名人(米国の実験では帝政ロシア時代の怪僧ラスプーチンと同じ誕生日だと言われた時)ならその人物の印象をプラスの方向に変えようとする言動が見られる(p111)と述べられていました。
 キャリアカウンセラーとして頷けたのは「抑うつ状態の人と会話をした人は、抑うつでない人と会話をした人に比べて、不安、抑うつ、敵意の感情が強く生じ」る(p201)という実験結果があるという話でした。仕事柄、帰宅してひどく疲れを感じることもありますが、その日の事を思い出すと相談者からマイナスのエネルギーを吸い取ってしまったせいだと気づくことがあります。プロである以上相手を選ぶことはできませんが、そういう「心の疲れ」は自分にだけ起きるのではないと知っておくのも有用だと感じます。

  「セルフハンディキャッピング」の章では自ら不利な条件を選んで試合や試験に臨む人がいるのは何故かを詳しく説明しています。セルフハンディキャッピングを「内的・外的」と「獲得的・主張的」の四つの要素に分類して述べ、「努力しない」こともアルコールの摂取と同様に内的で獲得的な要素と位置づけます。「努力をする・しない」は自分で決められる自己統制可能な要因で、「能力がない」と悪い評価を他者に決められてしまうよりはマシだ(p68)と考える人もいるという解釈を読んでなるほどと思いました。つまり試験勉強を懸命に頑張った結果がひどい成績だとなると、自分の能力の低さが確定してしまうからそれを避けるために敢えて勉強しない、つまり努力すれば良い結果を出せる可能性を残しておく、という方略だと述べます。
 その他「自己呈示と自己概念」の章では人はある一つの機会・場面で「自分のすべて」を表現できるわけではないと述べ、その場面で適切だと思われる自己の側面を「編集」して呈示する。そしてその「編集」作業に於いて参照するガイドラインが自己概念だと説明(p242)しています。自己概念と表層的な言動との関係が理解できた気がしました。

 この書評を読まれて本書に手を出すのをためらう方もおられるでしょうが最後の章「舞台から降りて」はその救いになっています。まず社会心理学を学ぶ学生が自分を打算的だとか卑怯な人間と感じるようになることがあると述べています。自己卑下のリスクを認めた上で次に自己評価を高めるために他者を意識した言動を行うといっても普通人はそれを無意識に或は自然な会話の中で行っているだけであって、意図的に自己呈示するのは「慣れない自分」を演技することで本来の自分とかけ離れるので疲れてしまうものだと付け加えています。そして自己呈示と似て非なる「自己開示」のポジティブな効果について触れて締めくくっています。キャリアカウンセラーの皆さんはよくご承知と思いますが、自己開示が他者とのコミュニケーション上とても重要な役割を果たします。

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【書評】 9. 岡本真一郎「言語の社会心理学」中公新書

9. 岡本真一郎「言語の社会心理学」中公新書


 目次:「文字どおり」には伝わらない・しゃべっていないのになぜ伝わるのか・相手に気を配る・自分に気を配る・対人関係の裏側―攻撃、皮肉・伝えたいことは伝わるのか・伝えたいことを伝えるには?
 著者:社会心理学博士。2013年時点で愛知学院大学教授。

 キャリアカウンセラーの仕事に就いて特に感じるようになったのはあらゆる職場での意思疎通も人間関係の問題も全て「言葉」(非言語的な身体表現も含め)によってなされているということです。本書に興味を持ったのはそのタイトルで、社会心理学の立場から「言語」の機能・効果・用法についてどのような研究成果が上がっているのか知りたいと思いました。新書一冊という限られたぺージ数なので各方面の研究をサンプル的に紹介する形をとっています。

 その中で私にとって新鮮に感じたのは「自分に気を配る」の章でした。社会心理学の知識のある方には既知の用語なのでしょうが、自己開示と自己呈示の違いについての説明はなるほどと思いました。自己開示はすでにカウンセリング手法の中でご存知の方も多いと思います。自己呈示は本書によれば「自分にとって有利になるように自分のことを「呈示」する言語活動」です。「開示」が正直に包み隠さず相手に話すことを指す一方「呈示」は必ずしも真実を話すとは限らない、と岡田氏は定義しています。何かの意図あってその意図を実現するために発話し、効果を期待するような言語活動を指すようです。言い換えれば自分にとって有利になるような発話法で、利己的ともいえるでしょう。他者への気遣いに基づいた話法とは逆の方向、つまり自分への気配りであると著者は述べます。

 自己呈示は自己宣伝、取り入り、栄光浴、汚名回避などに分類されるとのことですがこれらの用語の響きはやはり利己的です。けれどもよく考えると誰でも多少このような発話を日常行っているはずです。セルフハンディキャッピングも自己呈示の一つで、試験や発表の前に「今日はどうも体調が悪いんだ」と友人に話すことで結果が思わしくなかった時の理由づけにするというような場合です。
 また自己呈示の研究の中で「自己監視傾向」という観点があります。これは本書ではなく棚原健次・中村完・國吉和子編著「社会心理学入門」福村出版で見つけたものですが(p59)、自己の表出行動を観察し、調整し、統制する傾向を測定するための尺度をスナイダーという研究者が作成したそうです。25項目のはい・いいえの質問に答えることで自分がどれ位自己監視(セルフモニタリング)する性向を持つのかがわかるようです。これらの質問の内容を見ると、周りの空気を読みながら自己呈示をさりげなくできる人かどうかを計測するもののようです。試しに私も自分で回答・採点してなるほど自分はそういう性向なのか、と納得しました。

【書評】8. 佐藤優「お金に強くなる生き方」青春出版社

8. 佐藤優「お金に強くなる生き方」青春出版社
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 目次:私たちを衝き動かすお金という幻想・大格差時代を生き抜くお金の極意・プロに騙されずにお金を増やすには・人生を台なしにしないお金の実学・お金と人間の幸福な関係を考える
 著者:元外務省主任分析官。ソ連からロシアに国家制度が変わる時期に大使館に勤務し2002年に背任容疑で起訴され有罪確定。「国家の罠」で毎日出版文化賞特別賞受賞。

 佐藤優(まさる)氏の風貌は豪胆な西郷隆盛を思わせます。既に10年以上前ですが現役官僚が起訴されたことを覚えている人も多いでしょう。本のタイトルや第3章「プロに騙されずにお金を増やすには」の標題からは蓄財や投資のノウハウに長けた人のようにも見えますが、本書は財テク的なものではありません。それどころか会社の後輩には時には自腹で奢ってあげようとか、毎日財布をチェックして所持金を確認し、領収書は取り出して保管しようとか、失礼な言い方かもしれませんが結構チマチマした「心がけ」を呼びかけています。また現在正社員でいるならば短気を起こして辞めたり無計画に独立したりしないようにと警告します。この堅実性と著者の外見から受ける豪胆さとのギャップに戸惑う読者もいるでしょう。けれども現実を冷静に把握分析するのが国家官僚の特質だということを考えれば違和感も中和されるのではないでしょうか。

 この本のまえがきの「資本主義社会において、お金は絶対に必要です」という第一行に書かれている言葉に強く惹かれました。キャリア&ライフをテーマとしているこの書評で本書を取り上げたのはこの点にありました。私達は全て、働くにしても生活するにしてもお金なしでは成り立ちえません。(実際、キャリアカウンセラーの方の中にはファイナンシャルプランナーの資格まで持っている方もいます。)
 著者は在ロシア駐在官という経歴上、ソ連の共産主義の拠り所だったマルクスの資本論を深く理解しています(参考:池上彰氏との共著「希望の資本論」朝日新聞出版)。だからこそ資本主義社会の光と影を感情論を排して見つめられるでしょう。格差社会の論議については昨年トマ・ピケティ氏の著書が火付け役となりましたが、佐藤優氏も「資本主義経済における労働者は構造的に搾取されており、必然的に格差は広がっていく(P58)」と述べます。そして「人類は平和の中で経済発展を維持しつつ、平等を実現するという課題をまだ実現していない(P59)」としています。資本主義も共産主義も理想の人間社会の基盤としては不具合が多いということでしょう。

 著者のお金に対する立ち位置は「お金に振り回されないことが大事」というもので拝金でも嫌金でもありません。これは恐らく著者が大学院で神学研究科を学んだこととも関係しているのでしょう。それを裏付けているような「あなた自身の半径5メートルから10メートルの人間関係、そのリアリティを大事にしましょう(P70)」が著者の一番言いたい事ではないかと思います。
プロフィール
ようこそいらっしゃいました。 キャリアカウンセラーのマニーです。 このサイトでは主に「働くこと」について色々な観点から考えたいと思います。ご意見お待ちしています。

マニー

Author:マニー
今西穂高
埼玉県在住

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