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3. 言葉は刃物 【去私対座】

去私対座3

  「言葉は刃物」と聞いてどのようなイメージが沸くでしょうか?「配慮のない言葉に傷つく」のようなイメージでしょうか。初めから悪意をもっての発言はもちろん許されませんが、なにげなく発した言葉であっても相手が傷つくことがあります。言葉の解釈は受け取った人次第で大きく変わります。届いた言葉がその人の感情を呼び起こします。自分の発言に相手が予想外の反応(喜怒哀楽などの感情)をして驚くこともあります。 「いやいや違うったら。・・・そんな意味で言ったんじゃなくて」 こんなセリフ、日常の中でよく出てくるのではないでしょうか?、或いはスルー(無反応)されてしまう場合も。相手が家族や友人でも発話者の意図どおりに反応してくれるとは限りません。むしろ意図した通り、ズレることなく受け取ってもらえる方が奇跡です。

  人の言葉に傷つく、或いは逆に人を傷つけてしまうと相手への不信や嫌悪が生じます。言葉は一度口から飛び出たら長く相手の心に留まります。どうあっても取り戻すことはできません。政治家の失言が世間の猛反発を呼ぶ事件もよく起きています。それ故「沈黙は金」と言うことわざのように黙っていることが生きる知恵の一つになったのでしょう。けれども「物言わぬは腹ふくるるわざ」(徒然草)のように言いたいことを言わないでいるとストレスがたまります。難しいものですね。
 キャリアカウンセリングでは相手の言葉に即座に反応するのが良いコミュニケーションとは限りません。(かと言って考えすぎて沈黙が長くなると相談者の方が不安になってしまいます。)相談者の悩みがカウンセラーから見て些細なことのように思えたり、堂々巡りをしていたりするためカウンセラーの方が早く相談者を説得しようと焦り、決めつけ的な言葉を行ってしまうと、最悪の場合相談者は傷ついて離れていってしまいます。「言葉は刃物」です。

 自分の言葉が相手にどのような反応を呼び起こすかを瞬時に計算して最適の言葉を選べるのがベストなのでしょうが、それができる人はプロ中のプロでしょう。私が心がけているのは、幾つかの言葉や言い方を候補として考え、頭の中でシミュレーションすることです。相談を続けている間にシミュレーションを繰り返しますが、ベストと思える言葉が確定するまでは、とりあえず会話を繋げていき(なるべく相手に話してもらうのが良いでしょう)結論めいた表現はしないようにしています。場合によってはその日に用意していた言葉を出さずに次回以降の相談まで取っておくこともあります。或いは相談の後でよい言葉や表現を思いつくこともあります。それらの言葉はメモしておいて忘れないようにも努めています。

 以上の説明とは別に「言葉は刃物」のもう一つの意味があります。調理で言えばプロの板前さんが鮮やかに魚をさばく時の包丁です。包丁は一口サイズに切り分けます。お客さんが食べやすい(わかりやすい)言葉になるよう適切な語彙を選ぶのは包丁さばきと似ています。或いは医師が腫瘍を切除する時のメスです。患者さんを傷つけないように細心の注意を払いながらダメージ部分だけを取り去ります。相談者の悩みを心の中からきれいに切り取ってしまうような言葉を選ぶのもカウンセリングのスキルです。
 例えば派遣やパートばかりで働いてきた方は自分が正社員よりも劣っているように思いがちです。けれどもじっくりお話を伺ってみると、契約期間や契約先の事業の都合で解雇されてしまったけれどご本人にはなんの落ち度もないことがわかったとします。そう言う場合には「でも、ご自分から辞めた仕事は一つもなかった訳ですよね。つまり素晴らしい忍耐力を持っているといえるのでは?」などと話しかけます。

 キャリアカウンセラーは医師ではないので薬も手術も使えません。使えるのは言葉だけです。自分の語彙を増やし、どんな場合にどんな言葉を使うのが適切なのか、言葉の効力を把握しておくことが大切です。
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